日々の残像VI〜音楽と暮らし〜

残像のブーケ/大森元気のブログ - since April 2019

サカナクション山口氏のインタビューと5年後の評価という話

f:id:zanzow:20200214125824j:plain
ずいぶん前の話になりますが、昨年6月のこと。
別ブログ<制作日誌>にサカナクションのことをつらつらと下書きに書いていまして、そっちは短くし、こちらに公開してみます。


サカナクション山口氏のインタビュー記事
約6年ぶりのアルバムリリースのタイミングで、サカナクション山口氏のインタビューがrockin' onのウェブ上で公開されていました。これを読んでいろいろと刺激を受けました。

多分このインタビューだったはずです ↓

rockinon.com
6年前の前作『sakanaction』は“セールス20万枚、アリーナをソールドアウトする”という目標で作ったアルバムだったそうで、無事目標は達成でき、紅白にも出たけれどその状況に違和感を感じたと。そういうふうに外に向かって音楽をやり続けるのはもう無理だと。

そんな状況からドロップアウトするための作品として、シングル『グッドバイ/ユリイカ』や『さよならはエモーション/蓮の花』など、内へ向かうような作ったこと。

僕らの世代ではミスチルとか、椎名林檎氏とかが大ブレイクした後に肥大化するイメージやセールスの維持などに苦しそうだったのを思い出しますね。インタビューで泣き出したり、「アルバム3枚出したら引退する」と宣言したり、暗くヘビーなアルバムを作ったり。(ちなみにそんな中作られた『深海』は僕がミスチルで一番好きなアルバムです)。安室ちゃんの方向転換も思い出されます。

ブレイクの目標を果たしたサカナクションも同じように苦悩したのでしょうか。あるいは売れ線を書くことに疲れたとか、単純に音楽的なこと以外にやること・考えることが増えてしまって不毛と思ったのかもしれません。

大御所や海外では状況は違うと思いますが、コンスタントに、しかも似た路線の楽曲を短いスパンで出し続けていくことが、世間的にもメーカーからも求められていたと察します。自らが得たポジションや数字を捨てる覚悟で、現状に待ったをかける作品を作ったのではないでしょうか。


残像カフェの場合
自分の話になりますが、少しだけ重なることがあります。
僕がかつてやっていた残像カフェはありがたいことに同世代の若者たちだけでなく、ミュージシャンや関係者達にもずいぶん評価してもらえました。さまざまな音楽性との異種格闘的組み合わせや大先輩のアーティストとの競演もたびたびありました。

理由はいくつかあるのでしょうが、バンドをイメージ付けたさわやかな1st(ミニ)アルバムの直後にまったく毛色の違う、60~70年代ロックから影響を反映した渋めの方向性で2ndアルバムを発表したことが大きかったように思います。

ロックやサイケ、ブルース、ニューオリンズ等の要素を自分達なりに解釈したものを散りばめ、ゲストミュージシャン達とのセッション性に重きを置くレコ発ライブを行なったりして、それらが少なからずバンドのアイデンティティーを作ったのだと思っています。

1stのときギターロックの1つとしてファッション的に聴いていたリスナーの方もいたと思いますし、ありがたい声に混じって嬉しくない批評もいろいろ頂いたものです。そういう人達に「なんか違う!」と思わせたかったし、1stはやりたいことのほんの一部分だと気づいて欲しい気持ちもありました。

事務所的には恐らくもう1枚同じ路線で作って欲しいと思っていたでしょうが、バンドの好きにさせてもらえたことは今でも感謝しています。

ただしやはりその2ndだけは唯一メーカーが付かないアルバムとなりました。やはり売れ線ではなかったし、音も独特だったし、1stとの落差が激しかったのでしょう。今から思えば1stも2ndも大好きですし、そこまでかけ離れているとは思えませんが、駆け出しのバンドを売るとなるとやはりそう映るのも無理はなかったと思います。

でもあれがあったからこそ本当の残像カフェを知ってもらえた気がするし、ファンの数だけでなく、より深く聴いてくれる人も増えていったように思えます。そしてその後の代表作(シングルと3rdアルバム)に繋がっていきました。

次元は違うかもしれませんが、そのときのことをちょっと思い出しました。(手前味噌失礼しました)


◆「新宝島」再び開けていく
サカナクションの話に戻ります。
インタビューを読み進めると内へ向かった時期を経て再び開けていくことが語られています。映画『バクマン。』の主題歌「新宝島」が転機となり今回のアルバムに繋がっていったこと。

新宝島」はラジオでよく流れていて、とてもパワーがある楽曲だと思っていました。売れるために奔走した時期、それに逆行して自分と向き合った時期、その両方を経たからこそ作れるものがあったのだと思います。映画という、ふとしたきっかけということも気負いすぎることなく制作できたという意味でうまく働いたのですね。


そんな紆余曲折があり、前作から実に6年ぶりのアルバムが今作なのだそうです。6年間アルバムは出していなかったけれども本当に濃い歳月だったのだと想像できます。


◆こだわり続ける姿勢
ライブにおいてはこだわりまくった6.1サラウンド・システムを組んでいるという話も話題になっていました。大赤字だそうですが、お客さんが音楽をもっと深く、より楽しめるような仕組みを作り直さないといけないみたいな話もしていた記憶があります(ちょっと詳細は忘れましたが)

▷音響エンジニアインタビュー記事
サカナクション、6.1ch サラウンドシステムのライブ秘話!PAスタッフの情熱ストーリー。 – J-WAVE 81.3 FM JK RADIO TOKYO UNITED
 
あとこんな記事もありました。ライブDVD(3パターン)のうち定価なんと3万円するものがあり、その値段にも驚愕しますが、原価が2万円を越えてて、サンプルもたくさん作ってるから完売しても赤字って話!どこまでこだわるというのでしょう....
サカナクション山口「原価が…」ライブBlu-ray & DVDが“3万円”の理由 (2018年6月16日) - エキサイトニュース



◆お茶の間にアートやカオスを見せる
個人的にはサカナクションはあまり聴いてこなかったバンドでした。(というよりも彼らに限らず、最新のバンドをすぐに好きになるということが自分は稀なので)でも6年前に紅白に出たあたりの頃ずいぶん話題になっていたのは知っています。バンドの形態をやめて横並びでMac操作してましたね。インパクトがありました。

今回新譜リリースの少し後、8月にミュージックステーションにも出ていて偶然観たのですが、特設会場のDJブースで歌っていて、DJやお客さんにもみくちゃにされながら熱狂している演出でした。
f:id:zanzow:20200214125708j:plain
歌っているそばまで人が躍り狂っていてちょっと尋常でないテンションでしたね。

f:id:zanzow:20200214125640j:plain
録画機能がないのでひとまず画面だけ撮っときました(笑)

お茶の間的な歌番組でここまでのカオスを見せる攻めの姿勢、インパクト、さすがだなあと思いました。自分ももっともっとこだわらなければ。もっともっと突き詰めなければ!と思いましたね、、。



ユーミンの言葉「5年後に評価されるものがポップス」
そして、インタビューにもありました(テレビでも話していたと思います)が、ユーミンに言われたという言葉のことが印象的でした。

(「ポップスを作りたい」とユーミンに言ったら、「もう作ってる」と言われて。)

『本当のポップスっていうのは、5年後に評価されるものなのよ』って言われて。今横並びにいる人たちに向かって受け入れられるものを作ってもポップスじゃないし、20年後30年後に評価されるものを作ってもポップスじゃない。5年後に評価されるものを作った人が本当のポップミュージシャンなのよ

これはさすがに深いなあ、考えさせられるなあ、、。

このブログを書いていて気付いたのですが僕が突然Perfumeにハマったときも、去年の乃木坂も、だいたい流行り始めてから5年くらい時差があったなあと。

流行りの音楽をいちいちチェックしない、もしくは知っていてもちょっと予防線を張ってしまうそんなところのある僕が、「ハマる」ところまで行くという時間ってやっぱりそのくらいなのでしょうね。

ファンだけのものだった個性が一般的に浸透していく、あるいは最初は“違和感”だったり“理解不能”に映るものが次第に気になって、その魅力や中毒性に気づき始める時間。僕に限らず、世間に広がって「ポップス」になる時間って、そのくらいなのかも知れません。

かと言ってやりすぎると、それはもちろん素晴らしいことには変わりないですが──理解されないまま終わってしまうのでしょう。そんなことを含め、5年後というユーミンの言葉、本当に考えさせられるなあと。


◆自分はどこを見て作るか
この話を自分の制作に当てはめるとなかな悩ましいところですね。何しろ1枚のフルアルバムで2年以上かかってしまってるし、録り始めたときと現在とでは流行っているサウンドも、時代の空気感も変わってしまっています。

まあ「5年後の評価」と言っているだけであって、「5年後に流行っていそうなもの」とは言っていないので(ぜんぜん違う)、つまりは今だろうが5年後の想像だろうが、流行りを追うのではなく己の信じるものをきちんと提示することが大事なのだと思います。

そのためにはもっともっと突き詰めて手癖とか熟考の足りないものは廃し、自己満足やダサさに気づく冷静な目を保ち、イマジネーション豊かに描いて、型にはまらないもの、わくわくさせられるものを作る必要があるのだと思います。

山口氏とは比べ物にならないけれど、僕も僕なりにこだわっているつもりだったけど、、、全然足りないなあと反省するし、同時に逆に「こだわり」なのか「優柔不断」なのかだんだん分からなくなって神経質になりすぎていくようで、よくわからなくなってきますね(苦笑)まあそれも含め制作の苦悩ですから。....頑張ります。


      ◆Information
【release】
●現在新作をレコーディング中です。
  別ブログ「大森元気の制作日誌」更新再開しました。

●自主レーベル10周年&大森元気30代を総括するbest盤
  『メランコリー OOMORIGENKI 2009-2018 BEST』 発売中
現在はライブ会場&通販で購入可

あがた森魚最新アルバム『観光おみやげ 第三惑星』
コーラスで数曲参加しています。→詳細(トレイラー動画あり)・購入
f:id:zanzow:20190911093422j:plain f:id:zanzow:20191231081654j:plain 

【 live 】 
あがた森魚ライブに不定期で参加させて頂いています。
ライブスケジュールはこちら。大森がどれに参加するかは後ほどお知らせします。

◆自身のライブは決まり次第お知らせします。
お誘いもお待ちしています!

【 works 】
現在全国公開中 映画「嵐電(らんでん)
(監督=鈴木卓爾/主演=井浦新/音楽=あがた森魚
TAMA 映画フォーラムにて最優秀作品賞&井浦新さんが最優秀主演男優賞を受賞!
・高崎映画祭にて最優秀作品賞受賞
あがた森魚によるエンディングテーマにコーラスで参加しています。

【 media 】
WEBマガジン「Cheer Up!」10周年&クリスマス特集「Cheer Up! Christmas」の中の「My Favorite Christmas Music」というコーナーに寄稿させて頂きました。
 Cheer Up! Christmas ---Cheer Up! WEB